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へぇーそうなんだ
東京・赤坂の寿司店主が食に関連する、ちょっとした豆知識を語ります。
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 今、初がつおが上ってくる時期ですので、鰹の話をしましょう。鰹の表面を炙ったのを「たたき」って言いますね。これって不思議に思いませんか。なんで「たたき」なんでしょう?あれは鰹の「炙り」でしょう?

 昔から不思議に思っていたのですけれど、ひとつはですね、昔の家の台所の造りと関係があるようです。昔の家は、入口の引き戸を開けると土間があったわけです。土の間ですよ。そこに流しがあって、真ん中に釜戸があって、その場所が十畳ぐらい。そこから先に畳の間があったわけですよ、昔の家ってのは。畳の間と土間の間に、幅五十センチぐらいの板の間があって、畳の間に上がるには、そこでまず靴を脱いだんですね。

 そして、鰹をどうしたかというと、土間にある釜戸のお釜を外して、下に藁を入れ、それを燃やした火で炙ったものなんです。今は、ガス台の火で鰹を炙りますが、本当は藁で炙ると、ものすごく風味が出て、また、良い香りがするんです。

 さて、「たたき」に戻りますが、地方によって違うようですが、この土間のことを「たたき」って呼ぶ地方があるんですよ。ですから、その「たたき」で炙るから「鰹のたたき」と呼ぶようになったと言うんですね。

 それと、前に出てきた畳の間と土間の間の板の間のことを「たたき」っていう地方もあるんですよ。土間、つまり、「たたき」で炙るから、「鰹のたたき」なったという説もあるんですね。

  「鰹のたたき」については、さらに、もうひとつ説があるんです。魚って、おろしたときに皮がついているほうと、ついてないほうがあるでしょう。基本的に鰹のたたきをつくるときに、皮の部分、つまり、皮目に串を打ち、薄く塩をふるんです。それから炙るんです。そうすると、余計な油が落ちて皮目もきれいに焼けるんですね。

 これが今の江戸前の基本なんですけれど、昔の家では、鰹にいろんな香辛料を塗って食べていた時期もあるんだそうです。極端にいえば、味噌や醤油、それこそ、唐辛子を塗りつけたりしてから、炙ったっていう説もあるんです。でも、魚の身ってのは、なかなか、香辛料がつきづらいじゃないですか。それで、手でぺたぺた、「たたき」ながら、香辛料を塗りたくっていたそうなんです。ここから「たたき」という言葉が来たという説もあるんですね。

 鰹の話をしたついでに、こんなお話もしましょう。鰹に限らず、まぐろなど青魚は、皆そうですが、背中のほうが青くて、お腹のほうが白いですよね。鰹は、その白い部分に黒い横縞があるんです。

 以前、テレビで、鰹が一本釣りで引っ張り挙げられた瞬間に、この横縞がぴーっと楯になるのを見たことがあるんです。本当に緊張した瞬間や、危機を感じた時、「まずい」って思った時、人間も冷や汗が出たりするでしょう。そんな感じなんです。釣られた瞬間に、横に走っていた線が90度楯になったんですよ。信じられないでしょう。

 それでも、その鰹が船にあげられて何分かすると、その縞が元の通り横に戻るんですよ。もう観念したと諦めるんでしょうか。これを見たときは本当にびっくりしました。

 青魚の話をしましたので余談ですが、青魚は、なんで上を向いている背中のほうが青や黒で、下を向いているお腹のほうが白いのか、というお話をしましょう。

 上空から見た海ってのは真っ黒、もしくは真っ青なんですよね。上空には、魚を狙っている鷹や鷲がいますでしょう。でも、背中の色が黒や青の青魚は、海の色に紛れてなかなかみつからない。つまり、この背中の色は、空の敵から身を守るためのものなんでしょう。

 逆に、10メートル、20メートル海の下のほうから海面を見たとしましょう。今度は海面は真っ白に見えるはずです。ということは、お腹が白い魚はみつけにくいというわけです。

 ですから、背中の色が黒や青だったり、お腹の色が白や銀色ってのは、うまくできてるもんですよ。天敵から身を守るための自然の原理っていうんですかね。すごいですよ。
掲載日:2006年04月04日
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