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へぇーそうなんだ
東京・赤坂の寿司店主が食に関連する、ちょっとした豆知識を語ります。
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焼酎
 今、焼酎ブームじゃないですか。「森伊蔵」、「伊佐美」なんて有名銘柄がありますでしょう。

 森伊蔵さんっていう人が、伊佐美っていう会社で番頭さんみたいな、右腕みたいな人だったそうで、伊佐美から森伊蔵さんが独立して自分で焼酎を造り始めたんですって。それで「森伊蔵」なんですね。ですので、もともとは伊佐美のほうが歴史が古いんです。

 麦焼酎で「百年の孤独」ってのがありますね。麦焼酎ではナンバーワンのブランドです。宮崎の黒木本店というところでつくっているんですよ。このネーミングについてご説明したいと思います。

 聞いた話ですが、この黒木さんという方は、二代目か三代目で、今は、多分六十歳ぐらいだと思います。若い時分、東京で大学に通っていたらしいんですが、長男なので、いずれは宮崎にある実家の家業を継がなければならなかった。家業ってのは、焼酎造りですね。

 でも、三十、四十年前なんて、焼酎っていったら、誰も飲む人がいなかったんですよ。格好良かったのはウイスキーですよ。「シーバス」、「ジョニ黒」、サントリーなら「リザーブ」、ちょっとお金ない人は「ダルマ」の愛称で知られた「サントリーオールド」。もっとお金がなければ「サントリーホワイト」か「レッド」なんて具合でした。

 酒の世界では、焼酎なんてブルーワーカーの飲む酒っていうイメージが強くて迫害されてたわけですよ。誰も飲まない。そんな時代だったんですよ。でも、黒木さんは焼酎造りの家業を継がなければならなかったわけですよ。嫌で嫌で仕様がなかったんじゃないかと思います。

 でも、黒木さんは大学時代に、コロンビアのガルシア=マルケスっていう作家の著作に出会うんです。ガルシア=マルケスは後にノーベル文学賞(1982年受賞)をとることになるわけですが、彼の作品を通して、米国による介入・迫害、内戦、貧しい生活を強いられてきた中南米の人々の姿を知るわけです。そして、「俺と一緒じゃないか」って非常に感銘を受けたんですね。「俺は、酒の世界で迫害されている焼酎造りをしなきゃいけないんだ」とリンクさせたわけです。ガルシア=マルケスの本を読んで自分もがんばろう、って、奮い立たせたんですね。

 そして、このガルシア=マルケスの著作には、「百年の孤独」っていうのがあるんです。感銘を受けた黒木さんは、その著作名をとって自分が造った焼酎につけたんですって。

 「百年の孤独」は今や、小売価格の十倍ぐらいに跳ね上がるほどの希少銘柄とされているわけですから、すごいですよ。黒木さんには心からエールを送りたいですね。
掲載日:2006年05月02日
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