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へぇーそうなんだ
東京・赤坂の寿司店主が食に関連する、ちょっとした豆知識を語ります。
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新子の話
 「小肌」の子供を「新子(しんこ)」っていうのを知っていますか。

 小肌は、成長につれて名前の変わる出世魚の一つで、「新子」「小肌」「なかずみ」「このしろ」とつづきます。「新子」は一貫のお寿司を握るのに三匹ぐらい使わなければならないぐらい小さな魚。そして、「このしろ」は、鯵(あじ)よりも大きいんです。

 「新子」は、江戸前寿司の三本の指に入るネタで、入荷するのは、七月の中旬(二十日頃)からお盆前までの短い期間だけ。最初、九州のほうから入ってきて、三重、愛知、そして八月以降に東京湾の荷が入荷するという流れなんです。「小肌」「なかずみ」「このしろ」は一年中とれるんですけれど、新子が出るのは、この三週間だけ。この時期だけのものなので、夏の風物詩の一つだったんですね。

 今の新子の値段は、出始めの頃は一番高くて、一キロ五万円ぐらいするんですよ。近海の大間の本マグロよりも高いんです。それでも江戸っ子ってのは初物好きですから、あがったら絶対買うという気風の良さがある。売値を高くするかというと、それもあんまりしない。

 新子がキロ五万でも、「このしろ」なんかはキロ五百円ぐらいで入りますよ。同じ魚なのに、これだけキロ単価仕入れ値に幅のある魚もめずらしいと思います。

 「このしろ」といえば、「この代」という漢字に当てはめることができます。昔、臆病な殿様がいて、いつも謀反を起こされて、城を取られるのではないかとびくびくしていて、不審な言葉を吐いた家来を全員焼き殺せと命じていたそうなんです。腹心は、「それは殿様の勘違いです。広く心を持たないと家来から逃げられますよ」と忠告しながらも、「また、始まった。これは参った」と思って、人間を焼く代わりに「このしろ」を城の下で焼いたんだそうです。つまり、この代は、「家来の代り」の意味だったんですね。

 「このしろ」を焼くと人間を焼いたときの臭いがするということでした。そこで、「このしろ」をお城の下でがんがん焼いたんですね。すると、お城の中まで、人を焼いたような臭いがしてきて、殿様が安心したって言うことです。腹心は、謀反を起こしそうな家来は焼き殺しました、と殿様に告げ、こっそり、家来を逃がしたそうです。

 「このしろ」は煮ても焼いても食べられない、生なんかでは、もちろん食べられない。酢でしめるしかない−−。そう伝えられていたので、試しに焼いてみたら、そんな臭いはしませんでした。食べられました。

 出世魚の話をしたのでついでに鱸(すずき)のお話もしましょう。

 鱸も夏が旬なんです。

 小さいのから「せいご」、「福子(ふっこ)」ときて、成魚を「すずき」といいます。

 夏場の鱸は本当においしくて、寿司でも良いですが、しゃぶしゃぶなんていうのは、究極のおいしさです。

 夏の鱸はおいしいですが、夏の平目は身が痩せていて水っぽくて全然おいしくないんです。「夏の平目は猫もまたいで通る」って言いますね。今の季節、お店で「平目おいしいですよ」と言われたら、それはどうかなって思ってください。

 また、出世魚には、鰤(ぶり)もあります。

 地方によって呼び名が違って、関東では「わかし」「いなだ」「わらさ」「ぶり」「かんぶり」が、関西では、「ちばす」「はまち」「ぶり」「かんぶり」って言うそうです。

 そして、関東では、天然の「はまち」はないんです。養殖した「わらさ」を「はまち」と呼んでいるんです。

 ですので、関東では、あまり、「はまち」なんて頼まないほうが良いと思いますし、「はまちありますよ」っていうお寿司屋さんはどうかな、と思いますよ。

掲載日:2006年08月01日
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