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医療メカトロニクスバックナンバー一覧へ >>
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第1回
『AED(自動対外式徐細動器)』
連載2 ― 「心臓が止まるとは−その医学的定義−」
(掲載日: 2007.02.09)
<< 連載1 「AEDが街に出た」
今回は、 一般に言う「心臓が止まる」とは本当はどういう状態を指すのか、説明していきます。
1.心臓の異常とは?
(1)心肺停止
「心肺停止」とは、文字どおり心臓の働き(血液を送り出すこと)と呼吸が止まってしまっていることです。心臓が血液を送り出せなくなることだけを指す場合は「心停止」(図4)です。
心臓が全体として機能しなくなり血液を送り出せなくなっても、初期の段階では多くの心筋細胞は生きています。もちろん放っておけば最終的に心筋細胞のほとんどが死んでしまい、人は死にます。
しかし、医療の発達した現在では、死に直面した一部の人の命を助けることが可能です。日本では、心原性心停止(心臓が悪くなって心停止になるもの)が、年間2〜3万件発生していると推測されています。心停止の原因で一番多いのが「心室細動」で、これは早期に除細動をかけることによって治療することができます。
(2)心室細動
心臓の筋肉(心筋)は、規則正しく、協調して収縮することによって血液を全身に送り出しています。これをコントロールしているのが“電気の流れ”ですが、コントロールがうまく効かなくなると心筋細胞は協調性を失って勝手に収縮しだします。すると、心筋は生きてまだ活動しているに、心臓はけいれんしたように震えて全身に血液を送り出せなくなってしまいます。
ステージでは、ダンサーたちが華麗なダンスを披露しています。ところが、急に音楽が聞こえなくなりました!一人ひとりはがんばって踊り続けているのですが、全体はてんでバラバラな状態です(図5)。
このように、心臓がきちんと収縮せず、細かく震えているだけの状態を「心室細動」(図4)と言います。心室細動は放置するとわずか数分間で「心静止」に至り、人は死んでしまいます。
(3)心静止
心室細動のときはまだ電気的活動は残っていて、心臓に電気が流れています。ですから、心電図をつけると異常な波形ですが波形は見られます。しかし、「心静止」になってしまうともう心臓には電気も流れず、心電図では何の変化も見られません(図4)。心筋細胞の多くが死んでしまっている状態です。こうなると除細動をしても意味がありません。一刻も早く薬剤投与などを含めた心肺蘇生処置が必要です。それができなければ人は死んでしまいます。
<POINT!>
「心停止」:
心筋梗塞やその他の原因で、心臓が血液を送り出せなくなった状態のこと。そのときの心臓を心電図で確認していくといろいろな波形が見られ、電気の流れている状態が分かる。
「心静止」:
心筋細胞の多くが死んで最終的に電気的活動もなくなった状態のこと。
「心室細動」:
心臓がきちんと収縮せずに、細かく震えているだけの状態。放置すると、わずか数分間で死に至る。
2.除細動の役割とは?
(1)心室細動の治療
除細動は、“心室細動に対して行われる治療”ですから、心室細動以外に行っても意味はありません。また、除細動は心室細動に“最も有効な治療”です。現在の薬物療法では十分な効果は上げられません。
(2)除細動の作用と効果
除細動は、心臓に電気を流すことによって電気的なリズムを元に戻す効果があります。
それぞれの心筋が勝手に収縮している状態のところに強い電流を流すと、心筋全体が一度に反応し、一瞬心臓全体が止まったような状態になります。しかし、心筋の多くがまだ生きていて機能が保たれていれば、心臓のリズムが回復し、きちんとした収縮を取り戻します。
先ほどのダンスの話に例えると、バラバラに踊っているダンサーたちに対してコーチが大きく笛を鳴らすようなものです。笛の音ではっと我に返ったダンサーたちは、再び音楽に合わせて踊り始めます。
<POINT!>
※除細動は、心室細動に使用する。
※除細動は、心臓に電気を流すことによって電気的なリズムを元に戻す。
今回は、「心室細動」がキーワードでした。次回は、AEDが一般市民に開放された背景を探っていきたいと思います。
連載3 「『居合わせた人』がAEDを使う重要性」 >>
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