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病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第3回
『体温計』
連載3 ― 「体温計の原理(その1) ―水銀体温計、電子体温計―」
(掲載日: 2007.04.27)
<< 連載2 「発熱のメカニズム」
現在、体温計には水銀体温計、電子体温計、耳式体温計の3種類があります。わが家には電子体温計があります。測定時間が短く、割れないので、じっとしていられない子どもの体温を測るにはとても便利です。
体温計はどうやって体温を計測しているのでしょうか。3種の体温計のしくみと特徴を見てみましょう。
1.水銀体温計
テルモでは、1984年に水銀体温計の生産を中止して
(注)
、電子体温計に切り替えています。最近、あまり見かけなくなったはずですね。
さて、皆さんは、体温をどこで測りますか?
わきの下や口の中ですよね。これは核心部の温度、核心温を計測するためです。
「体温調節のメカニズム」でも述べましたが、核心温とは、脳や内臓といった重要臓器を含んだ部分の温度のことです。より核心部に近い温度を測るために、わきの下や口の中で測るというわけです。
測るときには、わきや口はしっかり閉じるようにしましょう。そうしないと、熱が逃げていってしまいますから。
では、挟むだけで体温が測れるしくみとは?
実は、熱伝導と膨張を利用しています。
(1)熱伝導とは
接触している物体どうしが熱を伝えるのが熱伝導です。お茶を入れた湯飲みが熱くて口をつけられないのは、お茶の熱が湯飲みに伝導して、湯飲みの温度が上昇するからです。
わきの下でも、口の中でも体温計を接しておくと、体の熱が体温計の水銀に伝導し、温度が上がった水銀は膨張します。
(2)膨張とは
体積が増えることです。温度が上昇すると、気体・液体・固体にかかわらず物質は膨張します。
例えば、電線は暑い夏にはだらんと垂れ下がっていますが、寒い冬にはピンと張っています。また、空気の抜けたボールをお湯で温めるとまた膨らんできます。これは、ボールの中の空気が温められて膨張したからです。
体温計の水銀も膨張して体積が増えます。熱伝導により水銀の温度が上昇し、膨張し、留点を通り抜けて毛細管を上昇していきます。水銀の膨張の度合いに合わせて体温計の目盛りを振ることによって、体温が分かります(図1)。
熱伝導により水銀の温度が上昇し、体温と同じになるまでに10分くらいかかります。その間、体温計をはさんでじっと待っているのは、ちょっとつらいですね。しかし、時間はかかっても「実測式」という方式ですから正確です。
「実測式」については、次の電子体温計の項で解説したいと思います。
2.電子体温計
電子体温計は、温度の変化により電気抵抗が変化する「サーミスタ」と呼ばれる温度センサー(半導体素子)の特性を利用して体温を測定しています。
このサーミスタは体温計の先(測温部)に埋められていて、この部分が温められることによって変化した電気抵抗を付属のマイクロコンピュータが温度に換算してデジタル表示しています(図2)。
電子体温計の測定方法には、「実測式」と「予測式」の2つがあります。
(1)実測式
実測式は、水銀体温計と同様、これ以上計測した温度が上昇しない状態(平衡温)になるまで計測していきます。そして、その最高温を表示します。それにはやはり、電子体温計といえども10分くらいかかります。
(2)予測式
知っている人はほとんどいませんが、電子体温計が水銀体温計と比べて短時間(数十秒)で体温を計測できる理由は予測式にあります。
予測式は、マイクロコンピュータに内蔵されたたくさんの体温測定データをもとに、最初の数十秒の体温上昇から最高値を予測します。また、電子体温計の予測式と実測式との測定差は、だいたい±0.1度くらいに収まっているようです。
<POINT!>
※
水銀体温計は、熱伝導と膨張を利用して体温を測定している。
※
電子体温計は、温度変化により電気抵抗が変化する「サーミスタ」の特性を利用して体温を測定している。
次回は、新しいタイプの体温計「耳式体温計」についてです。
(注)
水銀は、常温で液体状の唯一の金属です。体温計に使用されている水銀は、中毒を引き起こす有機水銀ではなく無機水銀ため、誤って飲み込んでもほとんど吸収されず問題はありません。しかし、水銀は常温でも少しずつ蒸発しており、この水銀蒸気を吸入して体内へ取り込むと毒性を発揮する危険性から、生産中止となりました。
最終連載 「体温計の原理(その2) ―耳式体温計―」 >>
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