1.気体の圧力と溶解度の関係
(1)酸素分圧とは
“混合気体の圧力(全圧)の中で、ある気体が占める圧力”を「分圧」と言います。空気は窒素が78%、酸素が21%、二酸化炭素が0.04%含まれる混合気体です。
空気の中で、酸素が占める圧力を「酸素分圧」と言い、地表で1気圧(760mmHg)の空気を吸った場合の酸素分圧は、
760(mmHg)×0.21≒160(mmHg)
となります。
(2)血液の酸素分圧
動脈血酸素分圧が100mmHgとは、酸素分圧100mmHgの気体が血液と接触していると仮定した場合と同じ量の酸素が溶けている、という意味です。
2.酸素供給システム
(1)肺でのガス交換
今までは、気体と液体が直接触れ合っている状況を考えてきました。しかし、肺胞で酸素が拡散する時はちょっと状況が違っています。
肺胞での拡散は、空気と血液は触れ合いません。肺胞壁を通過して血液中に拡散していく必要があります。しかし、正常な肺胞壁の厚さは0.5μm以下と非常に薄いため、通常では酸素の拡散に問題は起きません。
また、肺胞から血液(および赤血球)に酸素が拡散し、平衡状態になる(血液に入り込む酸素分子の数と肺胞内にある酸素分子の数が等しくなる)のにわずか0.25秒しか要しません。安静時に血液が肺毛細血管を経過する時間は0.75秒ですから、酸素を取り込むのには十分余裕があります(図14)。
(2)ヘモグロビンの酸素結合能
ヘモグロビン1gに対して、約1.34mlの酸素が結合します。血液100mlにはヘモグロビンが約15g存在するので、酸素は約20.1ml(15×1.34ml)含まれていることになります。
一方、『ヘンリーの法則』により物理的に血液中に溶解している酸素(溶存酸素)はわずか0.3mlにすぎず、ヘモグロビンがいかに効率よく酸素を運搬しているかが分かります。
血液100ml中の酸素含有量(20.4ml)=
ヘモグロビン結合酸素(20.1ml)+溶存酸素(0.3ml)
また、ヘモグロビンには周囲の酸素分圧が高い(酸素がたくさんある)状態、例えば肺では酸素と結合しようとし、酸素分圧が低い(酸素が少ない)状態、例えば末梢組織では酸素を解離し、周囲の組織に酸素を放出しようとする性質があります(図15)。この性質を表したものが酸素解離曲線(図16)です。
(3)ヘモグロビンによる酸素輸送
酸素解離曲線は、酸素分圧とヘモグロビンの酸素飽和度(ヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているか)との関係を表したものです。
このグラフから、ヘモグロビン周囲の血液の酸素分圧が変化したときにヘモグロビンの酸素飽和度がどのように変化するかが分かります。
まず、酸素分圧100mmHgの辺りを見てみましょう。これはちょうど肺胞での酸素分圧と同じになります。肺胞と平衡に達した肺胞毛細血管中の血液の酸素分圧も100mmHgとなり、その時の酸素飽和度はほぼ100%です。多少酸素分圧が低下しても、酸素飽和度はほとんど変化せず、しっかり酸素と結合しています。
肺胞でたっぷりと酸素を含んだ血液は、やがて末梢の組織に到達します。末梢組織にやってきた血液は酸素をどんどん供給し、末梢組織と平衡に達します。この時の酸素分圧は大体40mmHgぐらい、酸素飽和度は70%であることが分かります。また、この辺りでグラフの傾きが急になっていますが、これは末梢組織の酸素の需要に対してヘモグロビンが速やかに反応することを表しています。
例えば、何らかの原因で末梢組織の酸素消費量が増えたとしましょう。これに伴い末梢組織の酸素分圧は低下していきます。この変化に対しヘモグロビンは酸素を手放し、組織に供給します。つまり、グラフの傾きが急ということは、わずかな酸素分圧の低下に対してもヘモグロビンは酸素飽和度を急速に低下させ、より多くの酸素を供給することを意味します。
このように、血液はきわめて効率的に酸素を運搬するしくみを持っています。また、ヘモグロビンと酸素飽和度の関係が理解できたと思います。この酸素飽和度を測定する機械が「パルスオキシメータ」です。
<POINT!> |
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血液中に拡散した酸素の大部分は、ヘモグロビンに結合して全身の組織に運ばれる。 |
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ヘモグロビンの酸素解離曲線は、酸素分圧に対して、ヘモグロビンがどのくらい酸素と結合しているかを示している。 |
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「酸素分圧」:気体や液体の体積当たりの酸素量のこと。 「酸素飽和度」:酸化ヘモグロビンの割合のこと。
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次回は、いよいよパルスオキシメータの原理です。
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