先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
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コラム
今週のテーマ
(掲載日 2008.07.08)
<舞台> アジアのとある国
<設定> 大きな内戦が終わってから60年がたった。その内戦は民族対立に端を発し、10年にわたった。疲れ果てた国民は難民として周辺国に流れ出し、周辺国の治安悪化が進んだ。対立していた国民は、強い外圧を受けてようやく和解したのだった。もともと勤勉な国民で、交通の要衝にも位置していたため、戦後60年でその国は急速な発展を遂げた。その一方で、国民の間に新たな火種ができている。それは「年金問題」だった。
<主な登場人物>
 ○東都大学准教授・・・西山勘助(にしやま・かんすけ)
 ○保険勤労省年金局企画課課長補佐・・・斎藤誠太郎(さいとう・せいたろう)
 ○夕刊紙「毎夕新聞」の記者・・・島谷涼風(しまたに・すずか)
 ○保勤省年金局数理調査課・・・三森数馬(みつもり・かずま)
 ○年金問題に執念を燃やす政治家・・・西郷竜一郎(さいごう・りゅういちろう)
 ○与党 民自党党首・・・川上一太(かわかみ・いった)
※ 日本人に読まれることを想定しているため、日本的な名前にしているが、他意はない。
<< 第十九話「『使える年金」が欲しい』」 
<前回までのあらすじ>
「税か保険料かなんて議論は意味がない」。下院議員の西郷竜一郎は年金学者の制度論をこき下ろした。案の定、学者たちからは強い反発があった。しかし、西郷はそれに反論をした。税か保険かなど、国民の生活にどのような影響があるのか!考えないといけないことは、年金が国民生活にいかに役に立つかなのだ、と。この主張は、年金がわかりくにくいと、遠慮していた人たちに強く響いた。その声に答えるように、西郷はどこにでも出向いて話をして歩いた。

  西郷竜一郎は語り続けた。語り続けると、スタイルが確立してくる。1年もたつと、いろんな会場で次のように話をするようになった。

 我が国の年金制度は、適度なインフレと、それを適度に上回る賃金上昇を前提としています。物価が上がっても年金額は十分に引き上げない。でも、賃金は上がり、それに応じて集まる保険料は増える。

 今後、急増する年金受給者に支給をしていくためには、数が少ない現役の給料が増えていくことを前提にしないと話が成り立たないのです。  

 しかし、そんなに都合よく経済が動くでしょうか。現実には、工業化が遅れていた国々が、一気に工業化していることが考慮されていません。労働者は国際的な競争にさらされて、賃金は上がりません。

 ところが、工業化、経済発展にともない、資源価格は高騰します。それは、消費者物価を押し上げます。  

 わかりやすく言えば、将来、給料が上がることを前提に住宅ローンを組むようなものです。思ったように給料が上がればよいのですが、上がらなかったら、生活を切りつめることになります。

 給料が下がったりしたら、生活が破綻します。民間では、すでにそういうことが学習されて、厳しい見通しをもとに計画を立てるようになっています。  

 厳しく見ておいて、それを上回ったら、みんなに分配すればよいのです。個人的な生活でも、家を持つことが人生の目的ではありません。

 それなのに、住宅ローンのために身動きが取れなくなる人生なんてばからしい。余裕がある範囲でローンを組んで、もし、給料が上がったら隣の土地を買って、庭を広げたり増築したりすればいいじゃないですか。

 年金だって同じです。政府は年金を払うためだけに存在しているわけではありません。たくさんある事業の一つです。医療も大切だし、道路、空港、通信といったインフラ整備を怠れば、国力が落ちて、年金どころでなくなります。

 ところが、年金財政の見通しにゆとりがないと、財政が悪化した時に身動きが取れなくなります。一方に、先輩と同じように年金が入ってくると信じている、もしくは不公平に感じる人がいるのに、給付を切り下げることは至難の技だからです。

 いまのように、賃金が上がることを前提にしても、保険料率を上げないと成り立たない年金財政の見込みは、非常に危険です。

 かつてのように、賃金が上がることが当たり前で、上がった時には、前の世代に一定の分配をすることに合意があれば成り立つ話でしたが、いまは、時代が違います。

 いまの物価上昇は、賃金を上げにくい物価上昇です。なぜならば、我が国のように資源の多くを海外に依存している経済では、資源高による物価の上昇は、国内では誰の利益にもなっていないからです。

 戦後の経済発展の時代は、内需が盛り上がり、モノが足りなくなって諸物価が高騰しました。ところが、いまは、国内の景気がいいわけではないのに、海外の物価高騰にあおられる形になっています。だから賃金を上げたくてもあげる余裕がないのです。  

 物価上昇は、実質的な賃金を減らします。物価上昇は金利上昇につながります。住宅ローンをはじめとした国民の借金は減らず金利が上がるので、借金の重みは増し、可処分所得を減らします。

 さらに、実質の賃金が下がっているのに、保険料率の引き上げは続きます。可処分所得は見た目以上に減っているので、国内の景気はさらに悪くなります。

 景気が悪くなっているとわかっていても、年金の負債が大きすぎるために、政府は身動きすることもできません。景気対策を打とうにも、年金の支給が足かせになって、思い切った借金ができないためです。

 こうして我が国の経済はどんどん縮んでいくことになります。これはもう、年金不況と言えるでしょう。

 これ以上、経済オンチの保勤省にモンスターとなった年金制度を任せておくわけにはいきません。60年余り前の内戦からの復興を思い出しましょう。国民がひとつになれば、乗り越えられない事態ではありません。

 そのために、今、考えないといけないのは、公的年金の役割です。あるべき役割を考えて、それに合わせた制度を作っていくことが必要なのです。単に、集めたお金を運用して、払った保険料に応じて支払うだけであれば、国が行う必要がありますか? 

 国の制度は助け合いの社会保障だから、意味があるのです。長い人生、今の勝者が20年後にも勝者でいられるかどうかは、わかりません。いつ体を壊して働けなくなるかわかりません。

 大切なのは、再チャレンジが難しくなる老後に、一定以上の生活が送れることを保障する制度だと思います。現役時代にたくさんの負担ができた人は、それなりに貯蓄ができているはずです。

 一方、何をやってもうまくいかず、貯蓄が残らなかった人でも、老後に人間らしい生活が送れるという安心感があれば、いろいろなことに挑戦してみようと考える人も増えることでしょう。これが保険の原則に合わないと考える人が多ければ、税方式でまかなえばよいと思います。

 でも、保険は、貯金ではありません。払った分だけもらえるか、の議論が好きな人も多いのですが、早死にしたら年金がもらえないで損をしたと考える人がどれだけいるでしょう。

 交通事故に遭わなかったから自動車保険に入っていたのが意味がなかったと考える人がいますか? 貯金であれば、長生きすると残りが少なくなって不安になります。

 いつまで生きるかは、死なないとはっきりしないのです。安心して老後を送るためにも、保険である年金制度はありがたいのです。

 ただし、これは保険料で賄う必要はありません。目先の議論に惑わされないでください。

 保勤省に言いたい。
 なぜ、事実をねじ曲げて平気なのですか。  
 なぜ、場当たりの言い訳をするのですか。
 なぜ、国民が判断するための真実を伝えないのですか。

 国民に言いたい。
 保勤省を信じても責任は取りません。
 目先の損得より長期の利益を考えましょう。
 誇張した発表の裏に「不都合な真実」がある。

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