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(掲載日 2005.12.27)
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■もうひとつの真実

 それでは、韓国研究グループのヒト体細胞移植ES細胞樹立は、本当に捏造されたものだったのか?11個の株樹立はすべて真実だ、とするのは無理なようだ。しかし、原材料となる「品質の高い卵子が得られたとすれば」の条件つきで、数個のES細胞樹立は可能だろうと専門家は考えている。そもそも2004年論文は、材料の入手手段の倫理的側面こそ問題視されたが、実験プロトコルと導き出された結果は十分、論文採択の基準を満たしていたのだ。

  米国の医薬産業にとって、治療に直結するクローンES細胞の効率的な生産方法は、まさに究極の「金のなる木」である。クリントン政権からブッシュ政権への流れのなかで、ES研究者vsホワイトハウスの構図がメディアでは喧伝されているが、これはあまりに短絡的である。新しいヒトES細胞樹立に米国国立衛生研究所(NIH)サポートは得られない図式こそ保持されているものの、知的財産戦略も考慮すれば、まちがいなく米国はヒト胚研究領域でも、世界のフロント・ランナーである。

  これまで倫理的に甘い(ES細胞の材料である卵子を容易に手に入れられる)アジア諸国での生命工学技術の開発には、見てみぬふりをしてきた感のある米国が、今回は危機感をもったのではなかろうか。もし、そうであるならば、論文捏造疑惑に関連した騒ぎがこれほど大きくなったのは、韓国研究者の技術が、十分臨床研究として通用するインパクトをもっていたことを逆説的に証明するものではないだろうか?

 現在の慮武鉉政権の「突然の反米姿勢」の行動様式の裏側に隠された真実に対する警戒もあるだろう。医療そのものの質をかえてしまうかもしれないほどのインパクトのある技術が、「倫理的問題の全くない科学技術大国」・中国に流出する危機感もホワイトハウスは抱いていて当然なのである。

 国家の生命線でもある「エネルギー覇権」の争いのなかで、あきらかにドイツ、ロシア、中国連合に圧されつつある米国が、生命工学という全く異質な領域で、ジャブを放って牽制している姿を思うのは筆者だけだろうか?

■先端医療と外交パワーゲームのトリアーデ※(2)

 1978年に政治学者のスタンリー・ホフマンは、冷戦時の国際政治を認識する手段として、「三次元外交チェスボード(diplomatic-strategic chessboard)」の概念を提唱した。すなわち、国際間の関係が政治(外交)、軍事、経済の3要素による複雑な連動によって形成されていくとしたものである。

 冷戦が終結した新世紀にあって、この概念を一歩推し進めてみると、軍事力のかわりとなる新たなる軸が必要になってくる。その軸は先端医療技術や遺伝情報も含めたテクノロジーすなわち科学技術力、情報収集力の総和だと予測される。

 この三次元チェスボードの上では、国家間の動き(外交)は、技術・情報の動きと連動し、さらに経済の動きとも緊密に連動する。また外交上なんの動きはないように見えていても、技術・情報の要素は、経済と激しく連動した結果、平衡を保っている。

 テクノロジーの進歩は、新世紀に向けてますます加速度をましていくのと同時に、一層、経済、外交の要素をもまきこんで、複雑な連動を伴っていく。しかし、この連動は、一歩誤れば、国家間同士はもとより全世界規模の紛争の要素にもなりえる。

 なぜなら軍事力が、核軍備の増加により抑止力が働くのと異なり、テクノロジー、特に先端医療技術の進歩には医学者・科学者自身の自制力以外、抑止力はありえないからである。
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