1996年には、団体加入保険の遺伝子情報の請求を禁止する連邦法(The Kassebaum-Kennedy Health Insurance Portability and Accountability Act)が制定され、「過去の病歴や遺伝的条件を加入謝絶の理由にしてはならない」として各州に保険会社を規制しているのである。2000年には連邦職員の遺伝情報の利用による雇用等の差別を禁止、2003年10月14日には遺伝情報差別禁止法案(Genetic Information Nondiscrimination Act)が上院で可決され、保険会社の審査に遺伝情報を利用することを明確に禁じている。
そのことを如実に示すのが1939年にユダヤ移民に対する受け入れ取締りを強化した「スミス法」、1941年にビザ発行を制限した「ラッセル法」だろう。これらの締め付けがなければ、多くのユダヤ人がホロコーストの悲劇を免れたであろう。欧米に共通する、この「20世紀最大の原罪」を鋭く風刺しているのが、アメリカ近代文学の大きな柱で、いまだにベストセラー作家でもあるフィリップ・ロスの新作「The Plot Against America」(注2)である。
歴史をさかのぼれば、遺伝カウンセリングは、欧米では聖職者がおこなう作業だった。遺伝現象を最初に法則として系統化し、遺伝学の基礎を作ったGregor Johann Mendel がオーストリアの修道院の司祭であったことは有名である。Mendelは自分の所属する聖アウグスチノ修道院の庭にエンドウを植え、その種子の形や子葉、種皮の色、サヤの硬さや色、花の付く位置、茎の高さなど七つの形質を用いて交配実験をし、1866年「植物雑種の研究」という論文にまとめ、チェコスロバキアのブルノ自然科学誌に発表したのである。彼の遺伝法則(優劣の法則 ・分離の法則・独立の法則)は今に至っても、遺伝学の基盤を貫く偉大なる発見である。