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(掲載日 2006.05.12)
韓国ES細胞捏造事件の闇の奥
(Heart of Darkness)
<連載5> WEB空間を支配する闇
投稿者  澤 倫太郎
 日本医科大学生殖発達病態学・遺伝診療科 講師

■東アジアにおける代理母制度

 韓国において、国家主導で構築されたインターネット網は、生命倫理上の重大な闇をもまた抱えている。それが、前章で触れた卵子売買や代理母契約だ。

 韓国ではもともと代理母に関する「裏の契約」が問題視されている。筆者は、科学技術文明研究所の洪賢秀氏にクローズドの研究会で講演をお願いしたことがある。同氏は、東アジアの生命倫理、特に生殖補助医療(不妊治療)に関する生命倫理研究の第一人者であろう。彼女が講演で語った「東アジアにおける生殖補助医療の裏側」の実態には、沈黙せざるを得なかった。

 その洪氏の渾身のレポート「韓国における代理母」によれば、韓国では、古くから男児を得るための「シバジ」と呼ばれる隠された代理母(サロゲート・マザー)制度があるという。そして、この代理母制度の伝統の担い手は、いまも昔も、経済格差にあえぐ中国吉林省の延辺朝鮮族自治州の女性たちなのだという。

 しかも、この隠された伝統は、拙稿「国家主導の生命工学の悲劇」でも触れたように、アジア初の生命倫理統一法「生命倫理および安全に関する法律」の発布に伴って「アンダーグラウンド化」し、現代に至っても、ひっそりと生き残っているのだ。「インターネットを使った秘密契約」という形態に変えて――。そして、卵子の商業的売買や代理母斡旋を、事実上、運営しているのは、不妊女性を支持するネット上のNGO団体「アギモ」なのである。アギとは赤ん坊のことを指し、「アギモ」とは「私の赤ちゃん」といった意味である。

 韓国で、代理母の担い手となっているのは、経済的理由から、不法入国も覚悟の上で韓国に入国する中国・吉林省の延辺朝鮮族自治州の女性たちである。それを裏付けるかのように、中国中央テレビは4月11日、中国衛生省が10日に、代理出産や、卵子と精子の売買を禁止すると表明したと報じた。同省は代理出産禁止の理由として「法律や道徳的な問題があり、実施することで社会に危害を与える」とし、その他の生殖医療については、衛生部門の許可を得た施設でのみ実施可能とする方針を示したという。また、施設の名簿も同省が近く公表すると伝えた。

 韓国の合計特殊出生率(Total Fertility Rate)は、2006年5月8日の韓国統計庁の最新の発表によると平均1.08人と、OECD加盟国の中でも最低水準にあり、日本をはるかに上回る少子化の大波は今や深刻な問題だ。代理母妊娠にかかる費用総額5000万ウォンから9000万ウォン(10ウォン=約1円)とされるが、このうち2000〜4000万ウォンが代理母への謝礼金となるという。そして、朝鮮族の女性の場合、不法入国など法的弱者の立場にあるケースが多いことから、謝礼金は相場より安価で済むとされる。韓国における代理母の需要がなくならない限り、経済格差に苦しむ朝鮮族の女性たちの不法入国は止まらないだろうとされる。

 日本においても不妊カップルの海外渡航により、代理出産や卵子提供をめぐる問題が、現場の混乱を生んでいる。この問題の詳細は、本稿と同時に「特別レポート」として掲載する。あわせお読みいただけたら幸甚である。

 慮武鉉政権をWeb上で熱狂的に支えるボランティア団体「ノサモ」、国家によって作られた英雄・黄ウソク教授の支援団体サイト「ILH: アイ・ラブ・黄ウソク」、そしてWeb空間で代理母斡旋に暗躍する「アギモ」。韓国ES細胞事件の真相を求め、河の上流を辿る21世紀のアポカリプス(黙示録)の旅路の終着点には、またしてもインターネットの裏面に広がる「闇の奥(Heart of Darkness)」(映画「地獄の黙示録」の原作) がぽっかりと口をあけているのである――。

■バイオコリアとプロパガンダ

 韓国におけるインターネットの普及は、2001年に韓国政府が掲げたIT、ナノテク、生命工学を3大技術とする国家戦略「バイオコリア元年」を宣言に遡る。このうちインターネット網の全国的な普及は、1994年の省庁再編に発足した大統領府直属の「情報通信部」を核にして、見事なまでに実現され、韓国は間違いなく世界ナンバーワンのIT先進国となった。

 日本との比較では、竹中平蔵総務大臣が主催する「通信と放送の融合の在り方に関する懇談会」で掲げられた「情報通信省」構想があるが、ブロードバンド網拡大というインフラ整備を通じた日本IT列島の実現など、韓国に10年遅れの「焼き直し」の域を出ない(しかも、その隠れた狙いがインターネットをツールにした世論操作だとしたら、とんだ噴飯ものといわざるを得ない)。

 計画の当初、韓国政府にプロパガンダのツールとして使おうという意図があったかどうかは明らかではない。しかし、これまでも多くのITソフト工学の研究者も指摘してきたとおり、このネットワークは、使い方次第では、政治的プロパガンタの普及には最適・最強のツールになり得る可能性を秘めている。そして2002年の大統領選挙、そして先の黄教授の支持キャンペーンにおいて、インターネットの威力を遺憾なく発揮し、見事に証明してみせたのである。そして、この実験結果は、先の胡錦濤・中国国家主席のアメリカ合衆国訪問の際にも問題視された「国家によるインターネットの規制」に繋がってくるのである。

新ネットワーク思考 そもそも、双方向性を謳うインターネットがどうしてプロパガンダとして利用されるに至ったのだろうか。この点に関連して、アルバート・ラズロ・バラバシが自著『新ネットワーク思考』で展開した解説を紹介しよう。



 彼は、現代のインターネット構築を1つの情報大陸に喩え、模式図(華厳のパールネットワーク)を示している。その情報大陸は、イン大陸、中央大陸、アウト大陸の3つの部分からなり、両端にある半島の間の湾ともいえるP2P(ピア・ツー・ピア)に小さな群島として浮かぶのがブログである。情報大陸図その浮かぶ泡のようなブログ同士の連結方法に、「鳥瞰」という映画の技法が用いられる。これがトラックバックである。高所から鳥瞰してはじめてそのブログの立ち位置が理解できるという理屈である。

 この極めて嗜好的な「個人メディア」が世界を変えるといわれる所以は、いわゆる垂れ流し的日記タイプによる「無秩序な情報の破片の氾濫」が淘汰され、アメリカ型の熟練と経験の報道ブログに収斂されるだろうと期待されているからだ。しかし、この情報の収斂が、ある政治思想とパラレルで民衆を取り込んでいく危険性もソフト工学の研究者たちは指摘するのである。

 バラバシはさらに、インターネット大陸では情報が、ある一定の方向性を保って流れる構造になっていることを指摘する。つまり玄関(ポータル:イン大陸のこと)から入って、中央部分を経て、企業サイトの支配するアウト大陸に流れていくという装置のカラクリである。

 ところが韓国においては、インターネット・アウト大陸はいまや完全に「親北集団」の根城と化しているのである。

The Long Tail ロングテイルという言葉がある。「ワイアード」の編集長クリス・アンダーソンの命名になるこのWeb空間にのびる「情報の尻尾」は、ブログにトラックバック機能がついて、さらにまた長くなり、分岐し、ウェブの隙間を走っていくのである。そして韓国のIT空間におけるこの「草の根のロングテイル」は、半島統一・親北主義に染まっているのが現状だ。ワイアードしたがって、韓国のIT空間の場合、玄関(ポータル)から入るのは簡単だが、入ったが最後、親北のロングテイルに絡め取られ、その情報は政府機関が掌握する中央大陸を経て、アウト大陸にまで流れ着く。

 この草の根のロングテイルによる統制は、本来は桟橋と桟橋のあいだで自由な言論空間を謳歌できるはずのブログ諸島にも及んでいるのだ。そして「半島統一」思想に少しでも反動するネット・ユーザーを待っているのは、「親日反民族行為真相究明特別法」を利用したサイバー空間からの、てひどい逆襲なのである。これが「半島統一」思想が韓国のWeb空間を完全掌握するのを可能にしたインターネットの実に単純で、かつ強力なカラクリなのである。

■勢いを増す半島統一思想

 その効果あってか、半島統一思想(ここでは明確に親北思想というべきか?)は、いまや、韓国政界はもちろんのこと、韓国の主要メディアや教育界、さらに法曹界まで、ほぼ完全にからめとっているのである。

 例えば韓国には「親日反民族行為真相究明特別法」がある。韓国政府は、これをメディア支配を補完する1つの方法として利用し、日本統治時代から発刊されている旧い歴史を誇る韓国3大紙に対して、当時親日報道(日本領だったのだから当たり前だ)を旗振りした社主(故人)たちをも、処罰の対象にしていることはすでに述べた。

 政府権力に対する忌憚のない批判は、民主国家のメディアにとって重要な存在理由のひとつにもなっている。わが国や欧米諸国のメディアによる、政界中枢に対する様々なバッシングのあり方は、むしろ社会が健全な証拠とも言える。

 韓国メディアにも時折、慮武鉉政権に批判的な記事は散見される。しかし靖国神社参拝問題や従軍慰安婦問題などの「過去の歴史認識」に関する事案にしても、4月中旬に見られた日本の海洋調査を巡る竹島領土問題に関しても、政権への批判というより、むしろ慮武鉉政権の対日外交の手ぬるさを煽っているのである。

 また、北朝鮮による拉致事件に関するメディアの報道姿勢においても日韓両国のスタンスの違いは顕著である。

 一時は病没したと、わが国の外務省からも公式に発表された拉致被害者横田めぐみさんの夫が、娘のキム・ヘギョンちゃんの遺伝情報から、韓国西部の全羅北道沖の仙遊島(ソニュド)海岸で拉致された金英男(キム・ヨムナム)氏(当時16歳の高校生)であることがほぼ同定された。しかも韓国国家情報院・金昇圭(キム・スンギュ)院長によれば、金英男(キム・ヨムナム)氏が北朝鮮に生存していることも確認されたという。これらの事実に関し、北朝鮮に対するわが国の国民感情の高まりと、韓国世論の解離は驚き以外のなにものでもない。

 これらの一連の親子鑑定において、病没されたとする横田めぐみさんの遺伝子診断の材料になったのは、めぐみさんのご両親が大切に保存されていた「めぐみさんの臍帯(へその緒)」であった。

 この渦中のさなか、慮武鉉政権はさらに驚くべき人事をおこなった。韓国初の女性首相韓明淑(ハン・ミョンスク)氏の登用である。与党ウリ・ナラ党の「小池百合子」とも称される韓氏は、環境省長官、女性省の初代長官などを歴任し、一昨年の総選挙で大物野党議員への対抗馬に出馬し、激戦を勝ち抜いたという点では「元祖・くのいち刺客」といってもよいだろう。

 日本の一部メディアでは、彼女が「従軍慰安婦問題」の熱心な提唱者であることを危惧する報道が目立つが、本当の危機はそんなことではない。彼女自身が朝鮮戦争当時に家族を引き裂かれた「離散家族」なのである。そして、だからこそ彼女自身が熱心に太陽政策を掲げている点なのである。

 中央日報が4月27日に報じたところによれば、その太陽政策の主宰者ともいうべき金大中(キム・デジュン、DJ)前大統領の6月の再訪朝計画も南北実務者会議レベルでの合意に至っているという。おわかりであろう。韓国初の女性首相は「半島統一思想」を磐石にするための基礎として慮武鉉政権が打った礎石なのである。そして次の一手こそDJの6月再訪朝なのである。

■Web空間の支配へ

  インターネット世界には明確な意味での国境はない。文字通り、天空を自由に舞い飛ぶ「鷹の視座:ホーク・アイ」からの「鳥瞰」は、国家による大衆の統制・制御を完膚なきまでに無力化するのだ。14億人もの民衆の行動原理を、1つのイデオローグに束ねていかねばならない宿痾を背負った中国政府が、この装置を警戒するのも当然のことであろう。このことはなにも中国に限った話ではない。ありとあらゆる権力の座にあるものにとって、「完全に自由な言論空間」は、極めて疎ましい存在なのである。

 しかし、中国や韓国において問題とされるのは、この本来「自由な言論空間」を大衆に提供する目的のために存在するはずのネット・ポータルサイト運営企業が、いとも簡単に、ひとつのイデオローグにその主導をあけ渡したことなのだ。そこにある原理はただひとつ――「利用者数すなわちヒット数こそが絶対の評価である」ということだ。

 インターネットの入り口「ポータルサイト」ビジネスで中国市場開拓にどうしても乗り出したい米グーグル(Google)は、中国当局のネット検閲に協力する姿勢を示した。中国政府が市場開拓の条件にあげたのが、当局によるネット検閲で、反政府運動に関連する「チベット問題」「天安門事件」「法輪功」などのキーワードではもはや関連記事にリンクすることができない。これに対し、欧米の人権擁護関係者などから厳しい批判を浴びることとなったのである。ホワイトハウスで4月20日催された胡錦涛・中国国家主席の歓迎式典で抗議行動を示し、米治安当局によって、外国賓客(ひんきゃく)を脅した容疑で起訴された中国籍女性(47)は、気功集団「法輪功」のメンバーで、中国のこのインターネット上の弾圧に抗議するものであった。

 その点では、わが国の映像メディアも同じであろう。一方で「国家の品格」を高らかに謳い、一方でホリエモンの逮捕・保釈報道に見られる道交法を全く無視したチープなアクション映画さながらのカーチェイスを競って見せた軽薄さは、会員諸氏の目にはどう写っただろうか?「所詮、数字(視聴率)がすべて」の行動原理に完全に埋没したメディアに、「金がすべてだ」と言い切った堀江被告を断罪する資格などはじめからないのである。
We the media
 サンフランシスコ・ベイエリアを活動拠点とし、人気ブログ「Bayosphere」や『We the Media』(邦題『ブログ 世界を変える個人メディア』)の著者としても知られるジャーナリスト、ダン・ギルモアなら、おそらくこう嘆くだろう。「Media, I’ve had enough.(メディアよ!もうじゅうぶんだよ)」と。

 Web空間という、国家や民族、イデオローグ、宗教をとうの昔に超越したはずの領域に、音もなく国家主義や民族主義が浸透し、ネットの本質(イデア)そのものを脅かす。韓国で起きていることは「数字のため」の原理に基づく日本のメディアにとっても対岸の火事では済まされない。

 次回は白熱する米韓パテントウォーズの実態と、ヒト・クローン技術と北朝鮮の孤独な将軍が結びついたとき、そこに浮かび上がる「最後の闇」について述べる。


 筆者付記:連載4から連載5まで1ヶ月以上のブランクがあいてしまった。いいわけするわけではないが、この間にも竹島周辺の海底地形探索をめぐる日韓領土問題や、韓国人少年の北朝鮮拉致の事実が明らかになり、その遺伝学解析から、どうやらこの少年が、同時期に新潟から北鮮によって拉致された横田めぐみさんの夫であったことが同定されるなど日韓両国を巡る諸問題が予想をこえるスピードで進み始めたことを加筆していくうち、連載掲載が遅れてしまったのである。そこで本稿では、会員諸氏へのお詫びもこめて、本編にも十分関連のある日本の代理母・卵子提供の問題に関する問題を「特別レポート」の形で掲載させていただきたい。 戻る >>
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