医療過誤訴訟の増加や防衛医療(Defensive Medicine)は、米国の医療費高騰の大きな原因ではない――。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部のジェラルド・アンダーソン教授とその調査グループは、医療過誤訴訟に伴う賠償金の国民1人当たり負担額や弁護費用が総医療費に占める割合などを調べ、カナダなど複数の国と比較。米国の医療費が経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも突出して高いのは医療過誤訴訟のせいだとする指摘を裏付ける結果にはならなかったとの調査報告を発表した。
この調査結果は、米医療政策専門誌「ヘルス・アフェアーズ(Health Affairs)」(2005年7〜8月号)に掲載された論文「Health Spending In The United States And The Rest of The Industrialized World」を通じて発表した。それによると、米国における医療過誤訴訟は件数こそ多いものの、2001年に支払われた賠償金額の国民一人当たり負担額は16ドルと英国(12ドル)や、オーストラリア(10ドル)、カナダ(4ドル)に比べて格段に高くはなかった。また、2001年の弁護費用が総医療費に占める割合も0.46%に過ぎなかったという。防衛医療については、定義が曖昧であるとして、医療費高騰の原因として明確に位置づけることは難しい、とした。
アンダーソン教授らはかねて、米国の医療費が高い原因として、(1)米国の医療制度の財務の仕組みは国際的な基準でみても非常に複雑であり、それを支えるための事務コストが高い、(2)需要者(医療保険会社や患者)による医療機関や製薬会社など医療提供者に対する値下げ圧力の働きかけが弱い、(3)国民一人に対する医師、看護師、病床、MRIなどの医療機器の数が他の国より少なく、利用が集中するので、必然的に価格が上昇する、そして(4)他の国に比べ、米国経済が全般に豊かで、国民に支払い能力がある――などを挙げ、マネージドケアなど医療制度のあり方を見直す必要性を訴えている。(参照:Health Affairs誌、 2004年7〜8月号、「U.S. Healthcare Spending In An International Context」)
アンダーソン教授は「医療過誤訴訟や防衛医療は医療費増加の大きな原因ではない。原点に立ち返り、医療サービス・製品(入院費、外来費、医薬品)の価格が高い理由について検証すべきだ。このままでは多くの米国民が医療費を支払えなくなるだろう」と強調した。また、「医療費が高くても、結果が他の国よりも良ければ納得できる。しかし、結果が他の国と変わらなかったらどうだろうか」と、医療の質と照らし合わせて医療制度を見直すべきだと訴えた。
OECD加盟30カ国の医療費の比較調査(2002年)によると、米国の一人当たり医療費は5,267ドルと最も高く、第2位のスイス(3,446ドル)を53%も引き離した。GDP(国内総生産)に占める医療費の割合も米国は14.6%と加盟国中で最大。対して、日本は、一人当たり医療費がOECD加盟国中18位(2001年に2,077ドル)で、GDP比は7.8%だった。
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