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海外トピックス
 英科学専門誌「Nature」および全米科学振興協会(AAAS)のオンラインニュースサービスなどから抜粋した記事、プレスリリースの要約記事を掲載しています。

掲載日: 2005.07.22
英医療専門誌が爆弾テロ発生時の救急救命ガイドラインを紹介
 英医療専門誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)は、7月7日にロンドンで発生した同時テロ事件を受け、同誌2005年7月16日号とホームページで、爆弾テロ発生時の医師の心得などについて特集を組んだ。米国の救急救命ガイドラインを紹介したほか、事件現場でのルポルタージュなどを掲載した。10数名の死者を出した2階建てバスの爆破事件は、英国医師会(BMA)の建物の目の前で起きた。さらなるテロ事件が懸念される英国では、「爆弾による負傷者の手当ては軍医だけに求められるものではない。どの医師も対応に迫られる可能性がある」として、医師の間の警戒レベルも高まっている。

  BMJは同号に掲載した記事「構内で発生した爆風による負傷(Blast injury in enclosed spaces)」(英ルイシャム大学病院の血管外科コンサルタント、エディー・チャロナー氏)を通じて、爆弾による負傷者の救急救命専門ガイドライン「爆発と爆風による負傷−入門編(Explosions and Blast Injuries: Primer for Clinicians)」(米疾病管理予防センター、CDC)の参照を勧めた。

 ガイドラインには、鉱山や建物、大型車などの中で起きた爆発や、建物の崩壊を伴う爆発のほうが、屋外で発生した爆発に比べて罹病率と死亡率が高いことや、爆発発生直後から一時間で救急救命措置をとらなければならない人数の目安は、すべての犠牲者の半数であること、また、軽度な負傷者を重度の負傷者より先に近くの病院に送る場合があることなどが記述されている。(※)

 ロンドンのテロ事件の場合、多くの負傷者は診断や治療を受けた後すぐに帰宅を促された。現場での負傷者の管理が不十分だと軽度の負傷者が各々近隣の病院に押しかけ、重度の負傷者の対応を阻害するといった事態に陥る可能性がある。今回のケースでは現場の救急救命活動の統制がとれていたことから、負傷の度合いに応じて負傷者を適切なタイミングで病院に送ることができたという。

 BMJはこのほか、救急救命活動に当たった人や負傷者のためにBMAが設けたカウンセリング専用ヘルプラインも紹介した。
※ http://www.bt.cdc.gov/masstrauma/explosions.asp(詳細はCDCのHPで閲覧可能)
First published 16 July 2005 @ http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/331/7509/119?ehom
「防衛医療」の実態調査−米救急医療年報
 米救急医療年報「Annals of Emergency Medicine」は、米国では、医療過誤の訴訟を恐れる救急医ほど、救急外来を訪れた患者に過度の医療行為を行なう傾向が強い、との調査報告を発表した。米国では、胸痛で救急外来を訪れる患者数は毎年700万人に上る。このうち半分に対し、入院や経過観察などの措置がとられているとされる。しかし、診断の結果、そのような措置が必要ないと判明する場合がほとんどだという。

  調査では、33人の救急医を対象に、医療過誤訴訟を回避したいと思う気持ちの強弱の段階別にグループ分けし、それぞれのグループによって、心臓疾患と思われる症状で救急外来を訪れた患者(1,134人)にどのように対処したかを調べた。その結果、訴訟を強く回避したいと考える救急医ほど、X線写真の撮影や、集中治療室(ICU)での処置、入院などを指示する傾向が強いことがわかった。

 米国では、医療過誤の賠償責任を負うリスクを減らすために医療提供者が必要以上の検査や処置、診療を行ったり、逆に、危険性の高い医療行為を拒否するなどの「Defensive Medicine(防衛医療)」の風潮が広がっているとされる。このことが、米国の医療費の高騰を招く一因になっている、との指摘もある。

 調査を率いたアイオワ大学のデビッド・A・カッツ博士は「防衛医療には、ガイドラインに沿ったものや有益なものもあるが、無駄で有害なものも含まれている」と懸念を表明。「訴訟のリスクを軽減できれば、防衛医療も減るだろうし、結果として医療費の抑制にもつながるだろう」と述べた。
First released 13 July2005 @
米医療費高騰を抑えるには制度の見直しを−米ジョンズ・ホプキンス大学
 医療過誤訴訟の増加や防衛医療(Defensive Medicine)は、米国の医療費高騰の大きな原因ではない――。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部のジェラルド・アンダーソン教授とその調査グループは、医療過誤訴訟に伴う賠償金の国民1人当たり負担額や弁護費用が総医療費に占める割合などを調べ、カナダなど複数の国と比較。米国の医療費が経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも突出して高いのは医療過誤訴訟のせいだとする指摘を裏付ける結果にはならなかったとの調査報告を発表した。

 この調査結果は、米医療政策専門誌「ヘルス・アフェアーズ(Health Affairs)」(2005年7〜8月号)に掲載された論文「Health Spending In The United States And The Rest of The Industrialized World」を通じて発表した。それによると、米国における医療過誤訴訟は件数こそ多いものの、2001年に支払われた賠償金額の国民一人当たり負担額は16ドルと英国(12ドル)や、オーストラリア(10ドル)、カナダ(4ドル)に比べて格段に高くはなかった。また、2001年の弁護費用が総医療費に占める割合も0.46%に過ぎなかったという。防衛医療については、定義が曖昧であるとして、医療費高騰の原因として明確に位置づけることは難しい、とした。

 アンダーソン教授らはかねて、米国の医療費が高い原因として、(1)米国の医療制度の財務の仕組みは国際的な基準でみても非常に複雑であり、それを支えるための事務コストが高い、(2)需要者(医療保険会社や患者)による医療機関や製薬会社など医療提供者に対する値下げ圧力の働きかけが弱い、(3)国民一人に対する医師、看護師、病床、MRIなどの医療機器の数が他の国より少なく、利用が集中するので、必然的に価格が上昇する、そして(4)他の国に比べ、米国経済が全般に豊かで、国民に支払い能力がある――などを挙げ、マネージドケアなど医療制度のあり方を見直す必要性を訴えている。(参照:Health Affairs誌、 2004年7〜8月号、「U.S. Healthcare Spending In An International Context」)

 アンダーソン教授は「医療過誤訴訟や防衛医療は医療費増加の大きな原因ではない。原点に立ち返り、医療サービス・製品(入院費、外来費、医薬品)の価格が高い理由について検証すべきだ。このままでは多くの米国民が医療費を支払えなくなるだろう」と強調した。また、「医療費が高くても、結果が他の国よりも良ければ納得できる。しかし、結果が他の国と変わらなかったらどうだろうか」と、医療の質と照らし合わせて医療制度を見直すべきだと訴えた。

  OECD加盟30カ国の医療費の比較調査(2002年)によると、米国の一人当たり医療費は5,267ドルと最も高く、第2位のスイス(3,446ドル)を53%も引き離した。GDP(国内総生産)に占める医療費の割合も米国は14.6%と加盟国中で最大。対して、日本は、一人当たり医療費がOECD加盟国中18位(2001年に2,077ドル)で、GDP比は7.8%だった。
First released 12 July2005 @
終末医療における「告知」――日本の研修医は、患者より家族を優先
 米医科大学協会(AAMC)の月刊会報誌「アカデミック・メディシン」7月号に掲載されたアンケート調査によると、日本の研修医は米国の研修医に比べ、患者よりも家族を優先的に末期治療の告知をし、治療を決める場面においても家族を関与させる傾向が強いことが分かった。アンケートは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)が、日本の研修医244人(回答率74%)、米国の研修医103人(同71%)を対象に実施した。

 それによると、がんの転移を最初に患者の家族に告知すると答えた回答者は、日本の研修医では95%あったのに対し、米国の研修医は2%だけだった。米国の研修医の53%は、最初に患者だけに話す、と回答している。

 また、日本の研修医の23%が転移の可能性を「家族だけに報告する」としたのに対し、米国の研修医は1%しかなかった。もっとも多かった回答は、日本の研修医は「患者と家族の両方に報告する」(72%)だった。米国の研修医は「患者だけに報告する」が45%あった。

  また、実際にがんの末期患者を診療した研修医に、患者に診断結果を開示したかどうか尋ねたところ、日本の研修医の78%は「家族の要請で開示しなかった」と答えた。一方、米国の研修医で同じ回答をした者は18%にとどまった。

 調査を率いたギャベイ教授は、こうした違いは、家族観や、がんに対する考え方の違いがあるためとみている。また、「自分は最善策をとった」と確信を持っている米国の回答者が半数近くあったのに対して、日本側が12%にとどまった点について触れ、「日本では、緩和医療の普及や家族構成の変化などに伴い、終末医療に対する考え方が過渡期にあるのではないか」と指摘している。

 ギャベイ教授は、このようなアンケート調査は、(1)文化や民族によって、また、患者一人ひとりや、それぞれの家族によって、終末医療の捉え方に違いがあること、そして、(2)個別にそれ相応の対応をすることがもっとも有益である場合が多い、ということを学ぶ良い教材になる、――とみている。

 論文のタイトルは"Negotiating End-of-Life Decision Making: A Comparison of Japanese and U.S. Residents' Approaches"。
First released 25 June 2005 @
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