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国民の立場に立って「社会保障潰し」に反撃を |
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日本医療総合研究所 取締役社長 中村 十念 |
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財政等審議会の11月建議(http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/top.htm)が公表された。この11月建議というのは、その標題にもあるとおり、平成18年度予算の各省要求に対するガイドラインである。財務省の勝負球である。しかし、社会保障や医療に関する中身を見てみると、伸び率管理こそ消えたものの、コジツケ論、ムリスジ論のオンパレードである。それを以下でご紹介する。
第一は「ブカブカ社会保障論」である。日本国民は財政の規模も超えた、身の丈に合わない社会保障の恩恵を受けているという意味である。建議にはこうある。「社会保障全体の規模を国民全体の『身の丈』にあったものとすることを目指し、社会保障給付の伸びを経済成長に見合う程度に抑制していくべきである」。本当に社会保障は国民の身の丈に合っていないというのであろうか。次の図(1)〜(3)を見ていただきたい。
一般会計の中の歳出に占める割合、税収に占める割合、社会保障に占める税の割合、いずれの面から見ても1980年と2000年では、何も変わっていないのである。どこから見ても身の丈に合わなくなっている傾向は読み取れない。
第二は、「社会保障金食い虫論」である。建議書はいう。「近年、公共投資の減少に伴って、建設国債の発行額が小さくなる一方、社会保障関係費の増加等を背景に、赤字国債の発行残高が急増している」。本当に社会保障関係費のせいで、国債発行残高が増加しているのであろうか。
図(4)を見て欲しい。1980年を100として国債発行残高と社会保障国庫支出金を追ったものである。その両者は、まったくリンクしていないということがお分かりいただけるであろう。特に近年は国庫支出分の伸びは、ほとんど止まっているが、国債発行残高は更に急激に伸びているのである。
第三は、「医療費亡国論」である。建議書はいう。「平成18年度予算編成における最重要課題は医療制度改革である。医療費は今後とも経済の伸びを大きく上回って伸びる見込みであり、社会保障給付の伸びの主要な要因となっている」。図(5)を見て欲しい。1983年から1993年にかけて、公的医療給付費は8.6兆円伸びた。しかし、次の10年間では、その伸びは4.7兆円に減っている。高齢化はより進んだのに、である。
しかし、厚生労働省は2015年の医療費を41.0兆円と予測した。2003年と比較すると15.1兆の伸びである。その次の10年間も18.0兆円伸びるとした。過去のトレンドを無視したこんな馬鹿げた予測があるであろうか。
ここを財務省に付け込まれた。そんなに伸びるのなら、削れ、削れの大合唱である。挙句の果ては、自らも医療給付費の抑制策を打ち出さざるを得なくなった。これらの行為は、通常は「マッチポンプ」と言って謗りの対象である。医療給付費は今でも十分にコントロールされている。ちなみに2004年度から2005年度にかけて、病院診療所に支払われた医療費の伸びは、わずかに1.2%である。
第四は、「高齢者金持ち論」である。建議書はいう。「特に健康寿命が伸張し、働き続ける人も多くなり、また、所得や資産の実態も平均的には現役世代と遜色のないものになるなど高齢者像は転換されている」。本当にそうか。
図(6)を見て欲しい。全世帯と高齢者世帯の年間所得の推移をみたものである。高齢者世帯はおおよそ全世帯の50%前後の所得で推移しているが、最近はむしろ、その格差が広がっているのである。全世帯の所得が下がっている中での格差拡大であるから、「高齢者像の転換」どころの話ではない。経済協力開発機構(OECD)では、その国の平均的な所得の50%以下の階層を貧困者層と定義づけている。その定義が絶対とは言わないが、それに従うと、わが国の高齢者世帯は平均的に貧困層であるというのが現実である。
第五は、「人勧絶対論」である。「近年、民間給与が下がり続けてきた中にあって、その期間における診療報酬本体の改定年は、民間給与動向や人勧のマイナス幅と比較しても大きく乖離している。すなわち、近年のデフレの期間、保険料や税を支払うものの給与は下がり続けているのに、それを受け取る側の報酬にはデフレの影響が十分に反映されていない」。これも本気で言っているのであれば、この審議会の委員の意識は相当ズレている。
まず、医療人であろうとも保険料や税を払っているのは当然である。それを医療人は一方的に報酬を受け取る側のという規定の仕方はおかしい。医療人にも民間の人もいるし、公務員もいる。民間の人は、民間給与動向の調査対象になっているだろうし、公務員は人勧の対象になっている。それを医療だけが世間と切り離された違う世界にいるなどと思わせるような言い方はアンフェアである。
これも当たり前のことであるが、医療機関の収入は「単価×数量」で決まる。
単価は診療報酬のことだと思っていい。数量は患者数である。従って、患者数が減れば、単価は同じでも収入は減るのである。収入は診療報酬だけで決まる訳ではないことは、少し商売の分かる人なら誰でも理解できることである。収入と給与も直結しないことも自明である。まさか、財政審の委員は診療報酬が、そのまま医療人のポケットに入ると思っている訳ではあるまい。
建議書の中に「1999年度以降のデフレ期の人勧のマイナス幅や物価動向とその期間における診療報酬本体の改定率との乖離幅は、▲5.3%となる」という注意書きがある。あたかも、▲5.3%を診療報酬切り下げのガイドラインとせよと言っているかのごときである。
診療報酬改定は2年ごとに行なわれており。先にも見たとおり、これまでの改定で医療費が暴騰したという事実はない。過去にさかのぼってツケを払えといわんばかりのことは、するべきではない。この2年間のことに限るべきである。
その前提で、人勧を見てみると、図(7)のようになる。2005年度の賞与の0.05ヶ月分アップは人勧の0.42%アップに該当し、▲0.36%を打ち消しておつりがくるケースである。つまり、2004年度、2005年度と国家公務員給与は下がっていないことになる。国家公務員にはほとんど給与に定昇がある。そのことを考慮すれば、この2年間ほとんどの公務員が給与アップしたのである。人勧を楯にとるのなら、診療報酬のマイナス改定は主張できない。
全国の医師の皆さんにお願いしたい。皆さんの友人にはきっと財務省の人や国会議員の方々も多いはずである。その中には心ある人たちも多いに違いない。その人たちに電話やメールをしていただきたい。実は財政等審議会の建議書には「国民皆保険を守る」はおろか、「国民皆保険」という言葉ひとつ出てこない。そもそも国民皆保険制度を守る気など、さらさらないからであろう。
しかし、国民皆保険制度こそ、わが国が大事に保全しなければならない財産なのである。どうか、これまで述べたような資料を使って、各方面に国民皆保険の危機を訴えてもらいたいと願うものである。
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