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医療法人社団 青柳皮膚科医院 理事長 青柳俊
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「開業医」と勤務医の名称が臨床医の区分として用いられているが、勤務医は分かるが開業医とは何者だろうか? 私自身の経験を踏まえ考えてみたい。
大学での研究活動や教育活動を辞して将来の方向を決めたのが22年前、44歳の時であった。
私自身が勤務医として目指す目標が明確でなかったこと、先輩勤務医の良きモデルが居なかったこと、二人の子供たちがそれぞれ高校や大学の受験年齢でもあったこと、などから、私の選択が家族に与える影響も考慮した結果である。
臨床の場を中心に臨床研究を続けながら後輩医師の教育にたずさわることも選択できたが、勤務医の道を断念し、町医者になることを決意した。
町医者として私が考えるような医療を可能にするためには自分で診療所を開設しなければならない。 結果として開業し、俗に呼ばれる「開業医」になったと思っている。
従業員を抱え、経営を考えながら診療を続ける難しさを理解してもらおうとは思っていないが、「開業医」は常に自分が倒れて診療が出来なくなる不安を抱えていることは理解して欲しいものだ。
収支ぎりぎりでの経営を強いられ、少人数ではあるが従業員の将来、家族の将来のための準備もしなければならない。
町医者として診療をスタートさせて22年になるが、経営者「開業医」としての悩みを解消しながら、希望した町医者としての診療を続ける難しさに直面している。
色々な議論の場であえて「開業医」と「勤務医」を区別した上で、所得が高いとの理由(何を根拠に指摘しているのか良く分からないが)「開業医」がバッシングを受けている現状があるが、町医者をバッシングしていることに他ならない。
特に現厚生労働大臣には「特別な思い」「誤解」があるのか、徹底して排斥を試みているとしか思われない。
現在の日本における地域医療体制のキーマンとして頑張っている町医者を「悪者」に仕立て、過去現在の厚生行政の過ちを責任転嫁しているのは見苦しい限りである。 総理大臣の「失言」もその流れに沿ったものとも言えるだろう。
勤務医にもこれから指導医のもと研鑽を積まなければならない若手医師、指導者の立場で
診療をこなしている勤務医、勤務医ながら病院経営に直接的に関与している医師など様々な立場が想定される。
医師にとっては生涯が研修、学習の連続であるが、若手医師には十分な知識と経験を積むために重点的に取り組む期間が求められ、時間的にも経済的にも相当な努力が必要である。
しかし、一定期間の後には、指導者として後輩の指導にたずさわることになり、専門分野に特化した自分の臨床的な探究心を満足させることが出来るようになる。
一生涯勤務医の道を選択する医師も居るが、自分が置かれている立場、家族環境などを熟慮して町医者の道を目指すことも多い。 それも一つの医師としての進む道であり、ほとんどの町医者はこのような過程を経ていると考えられる。
しかし、最近では心ならずも勤務医を辞して「開業医」に転ずる医師が多いと聞いている。
私が先輩勤務医を観察していた時期は、学会発表を伴う出張は国内・国外を問わず可能であり、時には病院からの費用や取引メーカーからの寄付によって出張費用が工面できていた。
中にはゴルフプレー代を含む各種接待で自分の懐が痛まない手当てをしている勤務医も多数居た。 また、時々のムーンライトも可能であり給与所得にプラスアルファーも得ていた筈である。
社会の要請もあり、ムーンライトは駄目、関連業者による接待は駄目、という流れが浸透し、勤務医としての役得はなくなってしまった。
この流れは正しく当然であるが、一方で医療費水準が低く抑え込まれ、各病院は人件費を抑制した診療体制を作り上げるように強いられてしまったため、低い給与水準のまま最低の人員で診療を続けなければならなくなった。
給与面の問題だけでなく、臨床研究を目的として勤務している指導的医師にとっては時間的な余裕もないため、学会参加や研究発表の機会もなく、勤務医が持っている本来の重要な目標が失われてしまった。
効率的な医療提供の号令のもと、在院期間短縮のための診療密度の上昇や各種煩雑なペーパーワークの急増している現状を改善するために給与面の優遇だけでなく、人員配置を厚くした余裕のある診療体制を構築できるような財政的なバックアップが必要である。
国家財政や地方自治体財政の悪化のため補助金カットや税金投入のカットを強いられるなかで、地域医療体制の中で政策的な不採算医療を担っている公的医療機関には特別な配慮が求められる。
このまま「開業医」或いは「町医者」バッシングが続けば、高度な医学知識や診療技術を得た上で町医者として考えるような診療を目指す「若手勤務医」の将来に向けた「やる気」「意欲」を削ぎとってしまうことになり兼ねない。 わが国の医療水準の底上げを妨げることになるだろう。
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