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(掲載日 2010.04.27)

 WHOは2000年に日本を含む東アジア地区でポリオ(小児麻痺)の根絶宣言をした。

 日本で最後に自然のウイルスによるポリオの発症が確認されたのは、1980年のことである。したがって、ポリオを「過去の病気」だと思っている人も多いだろう。

 ところが、日本では毎年のようにポリオの患者がでている。根絶した病気にかかるのは、ポリオの予防接種が続いているためだ。日本のポリオの予防接種は、毒性を弱めたウイルスを飲む「生ワクチン」で行われている。1歳未満の赤ちゃんに接種することが多いが、スポイトで口にたらすだけで、注射に比べると痛くないため、高い接種率が続いている。

 ところが、この生ワクチンをのんで少したつと、突然、高熱が出る赤ちゃんがいる。40度前後の高熱が何日か続いて入院し、治ったと思ってホッとしていると、それまで活発に動かしていた足が動かない。そこで、病院に相談すると、小児麻痺にかかったという現実を知ることになる。

 北海道の男児は 07年、生後6カ月で接種を受けた3週間目に 40度近い発熱があり、両足にまひが残った。 08年、予防接種法にもとづく健康被害の救済が認められた。 08年には新たに5人の被害救済が認められた。予防接種の救済制度ができた76年から 07年までにポリオで健康被害が認められた人は132人にのぼる。

 この生ワクチンが、世界中で使われているというのであれば、まだ諦めもつく。いまだにインドとアフリカの一部の国では自然のポリオが残っていて、空港の便器を調べると、先進国でもポリオウイルスがみつかることがあるからだ。もし、ワクチン接種をやめると、ウイルスに無防備な子供が増えて、何かの拍子に感染が広がると、一気に流行する可能性もある。そのため、根絶が宣言された国でもポリオワクチンの接種は続いている。

 しかし、先進国では、同じポリオワクチンでも、生きたウイルスを使わない「不活化ワクチン」が使われている。不活化されたワクチンであれば、実際にポリオにかかる心配はない。世界の約40カ国では、すでに不活化ワクチンが使われている。

 これは、特に新しいワクチンではない。日本でも、1961年までは不活化ワクチンが使われていた。ところが、実際にポリオが流行している時に不活化ワクチンは十分な抑止効果をあげることができない。かつての日本も流行を抑えることができずに、当時のソ連から生ワクチンを緊急輸入して流行を抑え込んだ経緯がある。

 多くの国では、流行が終わると、順次、不活化ワクチンに切り替えている。日本でも、根絶が確認された 2000年以降、不活化を求める意見が強くなり、 03年に厚生労働省の「ポリオ麻疹検討小委員会」が不活化の早期導入の必要性を指摘した。日本で唯一、ポリオワクチンを生産している日本ポリオ研究所は単独で製品化を目指したが、 04年に頓挫した。その後、いまだに切り替えができない状態が続いている。

 現在、北里研究所、武田薬品工業、第一三共といったメーカーも参入して、4グループが開発を進めているが、製品化までに数年が必要な段階にある。

 このまま漫然と、国内メーカーが製品化するのを待っていてよいのか。国内で開発ができるまでの間だけでも、海外で安全に使われている不活化ワクチンを輸入して使えばよいのではないか。まさに、61年に生ワクチンを緊急輸入をしたように、不活化ワクチンでも決断があってもよいのではないか。ポリオに限らず、日本のワクチン行政は大きく遅れている。その結果、かからなくてもよい病気で亡くなったり後遺症が残ったりする人は後を絶たない。これは行政の不作為の被害といえる。

 これから生まれてくる子供たちのために、国は予防接種行政を根本から見直すべきだ。

--- 杉林痒(ジャーナリスト)
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